税理士のための会社破産対応マニュアル|顧問先倒産時に知るべき実務・手続き・注意点

執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)

第1章 まず知っておくべき基本:会社破産と税理士の役割分担

1-1 会社破産とは何か(税理士目線の整理)

倒産手続きの全体像:「清算型」と「再建型」の二分類

顧問先が資金繰りに行き詰まったとき、経営者が選択できる手続きは一つではありません。まず税理士として把握しておくべきは、倒産処理手続き全体の構造です。

倒産処理手続きは大きく「清算型」と「再建型」に分かれます。

清算型とは、会社をたたむことを前提に、財産を処分して債権者に分配し、最終的に法人格を消滅させる手続きです。「破産」と「特別清算」がこれに該当します。

再建型とは、会社を存続させながら債務を整理し、事業の立て直しを目指す手続きです。「民事再生」と「会社更生」がこれに該当します。

また、裁判所を通さずに債権者と直接交渉する私的整理という手法もあります。

税理士が顧問先の状況を弁護士に伝える際、「この会社はどの手続きに向いているか」をある程度整理しておくと、弁護士との連携がスムーズになります。以下でそれぞれの手続きの概要を整理します。

各手続きの比較(税理士が知っておくべきポイント)

分類 手続きの種類 裁判所の関与 実務利用率
清算型 会社破産 あり(法的整理) 93%~95%
特別清算 あり(法的整理) 3%~4%
清算型私的整理 なし 不明
再建型 民事再生 あり(法的整理) 2%
会社更生 あり(法的整理) 0.10%
再建型私的整理 なし 不明

※ 詳細は「各種会社倒産手続き」をご参照ください。

経営者保証ガイドラインについて

稀に「経営者保証ガイドラインは利用できますか?」というご質問をいただきます。

経営者保証ガイドラインとは、中小企業の経営者が会社の債務について個人保証をしている場合に、一定の条件のもとで保証債務を整理する仕組みです。会社の破産手続きとは別に、代表者個人の保証債務を免除または大幅に減額できる可能性があります。

ただし、利用にあたっては以下のハードルがあります。

当事務所では経営者保証ガイドラインの利用は取り扱っていません。利用をご検討の場合は、対応している弁護士にご相談ください。

個人事業主の顧問先について

個人事業主の場合、法人格がないため「会社破産」ではなく個人破産の手続きになります。ただし事業を清算するという意味では会社破産と共通する部分が多く、税理士として必要な初動対応はほぼ同じです。当事務所では個人事業主単独の個人破産は原則として取り扱っておりませんが、法人と代表者をあわせた案件については対応しています。顧問先が個人事業主の場合は、まず弁護士にご相談ください。

1-2 税理士が関与できる範囲と、弁護士の専管業務(代理権)の境界線

顧問先の倒産が近づくと、税理士は「自分はどこまでやっていいのか」という疑問に直面します。この境界線を正確に把握していないと、善意の対応が非弁行為(弁護士法72条違反)となるリスクがあります。

税理士が「できること」

税理士の業務範囲は、税理士法第2条に規定されています。倒産局面において税理士が適法に行える主な業務は以下のとおりです。

税理士が「できないこと」——弁護士の専管業務

弁護士法第72条は、弁護士以外の者が報酬を得る目的で「法律事件に関する法律事務」を業として行うことを禁じています。違反した場合は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(弁護士法77条)が科されます。

倒産局面において、以下の行為は弁護士の専管業務(代理権)であり、税理士は行うことができません。

「グレーゾーン」に注意

実務上、税理士が意図せず非弁行為に踏み込みやすい場面があります。

要注意のケース

これらは税理士として顧問先のためを思っての行動であっても、弁護士法上のリスクを伴います。財務数値の説明にとどめ、法的判断・交渉は弁護士に委ねることが、税理士自身を守る最善の対応です。

まとめ:役割分担の原則

場面 税理士 弁護士
財務状況の把握・分析 ◎ できる ○ できる
経営者への財務説明 ◎ できる ○ できる
債権者との交渉 × できない ◎ 専管業務
法的手続きの選択・助言 × できない ◎ 専管業務
申告書・帳簿の整備 ◎ できる △ できるが専門外
破産申立て × できない ◎ 専管業務

1-3 税理士が「最初に察知できる立場」である理由

なぜ税理士が最初に気づけるのか

会社の財務状況を定期的かつ継続的に把握している専門家は、顧問税理士をおいて他にいません。金融機関は融資審査の場面でしか数字を見ません。経営者本人は、財務の悪化を直視できないケースが少なくありません。

月次試算表・資金繰り表を毎月確認している税理士は、会社が危機的状況に向かうプロセスをリアルタイムで追える唯一の立場です。この優位性を活かして早期に弁護士につなぐことが、顧問先の選択肢を最大化し、税理士自身のリスクも最小化します。

月次試算表・資金繰り表で見えるSOSサイン

以下のシグナルが複数重なるほど、危険度は高まります。一つひとつは些細に見えても、組み合わさったときに「もう時間がない」状態になっていることがあります

試算表から読めるサイン
資金繰り表から読めるサイン
【注意】ファクタリング業者の中には、反社会的勢力が関与するケースがあります

ここ数年、会社の末期段階でファクタリングを利用するケースが増えています。ファクタリングは貸金業登録が不要なため、事実上の闇金崩れの業者が参入しているケースがあります。金融庁も「ファクタリングの利用に関する注意喚起|金融庁」を公式に発出しており、悪質業者への警戒を呼びかけています。

こうした業者は、弁護士が受任通知を発送した後も取り立てをやめないことがあります。さらに、売掛先の会社に大勢で直接乗り込んで大騒ぎするケースも当事務所では経験しています。売掛先との取引関係を人質にした事実上の恫喝であり、通常の破産手続きの想定外の事態です。

顧問先がファクタリングを利用していることが判明した場合は、利用金額を弁護士に必ず伝えてください。弁護士の介入方針・事業停止のタイミングの判断に直接影響します。(なお、ファクタリング会社の社名だけでは危険な会社かどうかは判断できないのが実情です。)

「支払不能」と「債務超過」の判断基準

会社破産を申し立てるには、法律上「支払不能」または「債務超過」のいずれかが要件となります(破産法第15条・第16条)。

もっとも、タキオン法律事務所のこれまでの経験では、経営者や経理担当者が「支払いがかなり厳しい」と認識している状態であれば、裁判所は事実上ほぼすべての破産申立を受理してくれます。帳簿上の黒字・赤字は問いません。弁護士も裁判所も経験上「会社破産案件で早すぎる決断は存在しない」ことを知っているからです。

法的定義の詳細については、「会社(法人)の自己破産はどんな場合にできるのですか?支払不能・債務超過とは?(会社破産の申立要件)」をご参照ください。

「まだ大丈夫」が最も危険

税理士として見落としやすいのは、経営者自身が現状を過小評価しているケースです。「来月には入金がある」「銀行がまだ貸してくれている」「売掛先との交渉中だ」という言葉は、事業者として最後まで前向きであろうとする経営者の姿勢から出るものです。しかしその言葉を額面通りに受け取り、弁護士への相談を先延ばしにした結果、破産費用すら捻出できなくなったケースを当事務所は数多く経験しています。当事務所の受任案件の約22%(48件/222件|実績222事例[2025年末時点])が「1年以上の費用長期積立型」ですが、「破産費用を全く準備できない状態」で法律相談に来られた方々です。

SOSサインが複数重なった時点で、「一度専門家に相談してみませんか」と声をかけることが、顧問先にとっても税理士自身にとっても最善の行動です。

1-4 倒産手続きの選択肢と、弁護士に相談すべきタイミング

破産以外の選択肢:まず全体像を把握する

顧問先が資金難に陥ったとき、選択肢は「破産」だけではありません。税理士として、どの手続きが選択肢になり得るかを把握しておくことで、弁護士への引き継ぎをより的確に行えます。

手続きの選択は、主に以下の3つの軸で判断されます。

※ 詳細は「各種会社倒産手続き」をご参照ください。

税理士として実務上重要なのは、「この会社は破産以外の選択肢があるか」を早期に見極める視点を持つことです。財務状況の悪化が深刻でも、事業自体に価値があればスポンサー型の民事再生という選択肢が生まれることがあります。逆に、財務内容が表面上それほど悪くなくても、主要取引先の離脱や代表者の健康問題など、事業継続の前提が崩れている場合は早期の清算が最善になることもあります。これらの判断は弁護士と早期に相談することで初めて見えてきます。

「まだ早い」は危険。早期相談が結果を左右する理由

税理士から「そろそろ弁護士に相談してみては」と提案しても、経営者から「まだ何とかなる」「もう少し待ってほしい」という反応が返ってくることは少なくありません。しかしこの「先延ばし」が、経営者・債権者・そして税理士自身にとって取り返しのつかない結果を招くことがあります。

当事務所の経験では、ご相談時点で「ギリギリ間に合うタイミング(※後述」と言えるケースは全体の10〜15%程度です。残りの85〜90%は、相談にいらした時点ですでに「あと3ヶ月、いやせめて1ヶ月でも早くお越しいただけていれば他に選択肢があったのに」という状況です。

この数字が意味するのは、経営者が「そろそろ限界かもしれない」と感じた時点では、すでに遅い可能性が高いということです。財務数字を毎月見ている税理士が「このままでは危ない」と感じたその瞬間が、弁護士につなぐべきタイミングです。

当事務所で破産手続きを終えた経営者の方から、よくこのような言葉をいただきます。

「いま思い返すと、初めての法律相談に行く前がもっとも心身ともにきつかったです。相談が終わって、やることが明確になると、心が楽になりました。こんなことなら、もっと早く来て相談すべきでした。」

追い詰められた経営者が最も恐れているのは「破産すること」ではなく、「何もわからないまま、どこへ向かっているかもわからない状態に置かれたままでいること」です。弁護士への相談は「終わりの始まり」ではなく、「不確実性(迷走・宙吊り状態)からの解放」です。

税理士からの「一度話だけ聞いてみませんか」という一言が、経営者をその解放に導く最初の一歩になります。

① 申立費用が捻出できなくなる——ただし、長期積立という選択肢がある

破産申立てには裁判所への予納金(20万円〜数百万円、案件規模による)と弁護士費用が必要です。多くの法律事務所では、費用を一括または短期間で用意できない場合、受任を断られるケースがあります。

ただし当事務所では、受任案件の約22%(48件/222件|実績222事例[2025年末時点])が「1年以上の費用長期積立型」です。「今すぐ費用を全額用意できない」という状況でも、毎月一定額を積み立てながら申立てに向けて準備を進めることが可能です。

税理士として顧問先に「費用がないから弁護士に相談できない」という判断をさせないでください。費用の目途が立たない段階でも、まず相談することで解決策が見つかるケースが多くあります

※ 費用分割に関する当事務所の方針については、「会社(法人)破産と個人破産などの分割払いは可能ですか?」をご参照ください。
※ (少し堅い話で恐縮ですが)「資産保全のため早期申立の要請」と「長期積立を認める当事務所の方針と対策」については、「申立期間が長くなることの何が問題か:弁護士の視点」をご参照ください。
※ 費用積立の実績・事例については、「破産費用の長期積立型|会社破産.com 実績222事例」をご参照ください。

費用面で顧問先が躊躇している場合も、まずご相談ください。税理士の先生からのご紹介の場合、費用・手続きの見通しについて丁寧にご説明します。

② 否認権(ひにんけん)の対象行為が積み重なる

否認権とは、破産管財人が「破産前に不当に流出した財産」を取り戻す権利です。否認権の行使対象は「詐害行為」と「偏頗(へんぱ)行為」に大別されます。詐害行為とは破産者の財産自体を減少させる行為、偏頗行為とは特定の債権者への返済や担保供与などのことです。

経営が苦しくなると、経営者は善意で「長年お世話になった取引先だけは先に払いたい」「親族への借入を先に返したい」という行動をとりがちです。しかし支払不能状態での特定債権者への弁済は偏頗行為として否認の対象になり、後から管財人に返還を求められます。早期に弁護士が介入することで、このような問題行為を事前に防ぐことができます。

『実績222事例』の実例「道徳的善行が破産法的には違法に」をご参照ください。

③ 財産の散逸・隠匿リスクが高まる

相談が遅れるほど、経営者が「何とかしようと」して財産を動かす可能性が上がります。代表者個人口座への送金、親族への不動産譲渡、廉価での資産売却——これらはいずれも詐害行為として問題になり得るだけでなく、場合によっては強制執行妨害罪(刑法96条の2)という刑事責任のリスクも生じます。

④ 従業員への影響が深刻化する

事業停止の時期が遅れるほど、給与遅配・未払いの期間が長くなります。従業員の未払賃金は未払賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構による立替払)で一部保護されますが、対象には上限があります。早期に弁護士が介入し、事業停止のタイミングを適切に判断することが、従業員への影響を最小化します。

なお、当事務所にご相談いただく方から、他の事務所への相談経験についてよく耳にすることがあります。「電話したら事務職員からいきなり『お金はいくらありますか?』と聞かれて、あとは機械的な質問が続くだけで本当に冷たかった」「初回相談で弁護士に叱られた」——こうした経験から、弁護士への相談自体をためらうようになってしまった経営者の方も少なくありません。

税理士として顧問先の経営者に弁護士相談を勧めるとき、「その弁護士が信頼できるかどうか」は顧問先の行動を左右する重大な要素です。第5章では、税理士として信頼できる破産専門弁護士を見極めるポイントと、当事務所への紹介の流れをご案内します。

弁護士に相談すべきタイミングの目安

「いつ弁護士につなぐか」の判断基準を、税理士として持っておくことが重要です。

以下のいずれかに該当する場合は、「一度弁護士に相談してみませんか」と経営者に伝えるタイミングです。

これらは「破産を勧める」のではありません。「専門家に状況を整理してもらう」という提案です。弁護士に相談した結果、破産以外の選択肢が見つかることもあります。まず弁護士に会わせることが、税理士として顧問先にできる最善の行動です。

第2章 顧問先が倒産しそうなとき:税理士がとるべき初動

2-1 経営者から「来月の支払いが厳しい」と言われたら

この言葉が出たとき、税理士は何をすべきか

「来月の支払いが厳しい」。この一言は、経営者がようやく口にできた言葉です。実際にはその数ヶ月前から、経営者自身は「もう限界かもしれない」と感じていることがほとんどです。

この言葉を受けた瞬間が、税理士として動くべきタイミングです。まず感情的な反応より先に、3つの事実確認を落ち着いて行ってください。その情報が、弁護士への引き継ぎの質と速度を決定します。

最初にすべき3つの確認

① 現在の資金残高と、いつ底をつくか

手元現預金の残高と、今後1〜2ヶ月の支払い予定(給与・社会保険料・仕入れ代金・税金・借入返済等)を照合し、「実質的にいつ支払いが止まるか」を把握します。

税理士として確認すべき具体的な数字は以下のとおりです。

この時点で「あと何日持つか」が明確になります。弁護士に相談する際、この数字があるとないとでは、初回面談の密度が大きく変わります。

② 債務の総額と内訳

借入残高・未払い債務の全体像を把握します。税理士として確認すべき項目は以下のとおりです。

確認が必要なのは、「役員借入金(代表者が会社にお金を貸している)」ではなく、「役員貸付金(会社が代表者にお金を貸している)」の有無です。

両者は似て非なるものであり、破産手続きへの影響が全く異なります。

役員借入金(代表者→会社への貸付)については、代表者が会社に対する債権者となりますが、実務上は破産手続きにおいてほぼ問題となりません。弁護士(破産申立代理人・破産管財人)も裁判所も関心をもちません。

問題となるのは役員貸付金(会社→代表者への貸付)です。

破産会社の管財人は、会社が保有するすべての債権を回収する義務を負います。会社が代表者に貸し付けているお金(役員貸付金)は会社の資産であるため、管財人は代表者個人にその返還を請求します。

代表者が会社と同時に個人破産を申し立てる場合は、免責されるため問題となりません。しかし代表者が個人破産をしない場合、代表者は管財人から個人として返済を求められることになり、深刻な問題となります。

実務上の落とし穴として、役員貸付金を見落としたまま会社のみの破産を申し立てるケースがあります。この場合、管財人が就任後に役員貸付金を発見し、代表者への請求という予期せぬ事態が発生します。当事務所では、この点を必ず事前に確認したうえで、会社・代表者の手続きを設計しています。

試算表上で「役員貸付金」「短期貸付金(代表者宛)」の残高がある場合は、必ず弁護士に伝えてください

※ このことから、上の【確認が必要なのは「役員借入金(代表者が会社にお金を貸している)」ではなく、「役員貸付金(会社が代表者にお金を貸している)」の有無です。】の意味が理解いただけると思います。以下のように、「会社は破産せず、代表者個人だけが破産の申立をする」ことを裁判所は認めないことから、「(個人破産の)破産管財人が(破産しない)会社に対して貸付金を回収するという業務が発生することは事実上(ほぼ)ない」のです。
※ 債務超過・支払不能状態の法人は破産申立をせず、代表者個人のみが破産するという申立を、裁判所は受理してくれません。なぜなら、これが認められると、多くの代表者が「個人だけ破産して、会社は放置すればいい」と考えるようになる結果、大量の会社が放置されることになり、債権者が貸倒損失を計上(税務上有利)できないという、さらなる不利益を被ることになるからです。

③ 連帯保証の有無と範囲

これが3つの確認の中で、経営者の人生に最も直結する情報です。

会社の場合、債務の内容は金融機関からの借入金であることが多く、その場合、代表者が連帯保証人になっている場合が多いです。そのため、会社を破産させるためには、代表者個人も同時に破産しなければならないというケースがほとんどです。

税理士として確認すべき点は以下のとおりです。

特に注意が必要なのは第三者保証です。代表者以外の方が保証人や連帯保証人になっている場合、会社と代表者が破産することにより、債権者は保証人・連帯保証人となっているその第三者に請求して債権を回収し、その保証人や連帯保証人は、法的にその債務を弁済しなければならなくなります。

第三者保証人がいる場合、その方の状況も含めて弁護士に伝えることが、手続き全体の設計に影響します。(実務では、代表者が第三者保証のことを完全に忘れており、債権者からの債権調査票の提出によって発覚することが時々あります。)

【図表】弁護士への引き継ぎ前に税理士が確認すべき情報 (※金額は概算で可)

確認項目 具体的な内容 優先度
資金残高 預金残高・今後の支払い予定・入金見込み ◎ 最優先
債務総額 借入残高・未払い債務・税金滞納・役員借入金 ◎ 最優先
連帯保証 代表者保証の有無・第三者保証の有無・保証額 ◎ 最優先
資産状況 不動産・預金・保険・車両等 ○ 重要
事業継続意向 廃業のみか、事業譲渡・継続を希望するか ○ 重要

経営者の心理状態と、伝え方のポイント

3つの確認と同じくらい重要なのが、経営者の心理状態を正確に読むことです。

会社破産の相談に来る経営者は、例外なく「人生で最も辛い決断」の手前にいます。長年育ててきた会社を閉めるということは、単なるビジネスの失敗ではなく、アイデンティティの喪失に近い体験です。

当事務所で多くの経営者と向き合ってきた経験から言うと、この局面での経営者の心理は概ね以下の3つのパターンに分類できます。

パターンA:「まだ何とかなる」型

現実を直視することへの恐怖から、楽観的な見通しを語り続けるケースです。「来月には入金がある」「取引先が助けてくれるかもしれない」という言葉が続きます。このパターンの経営者に「もう無理です」と直接言うことは逆効果です。

→ 有効な伝え方:数字で現実を共有する

「試算表を一緒に見てみましょう。数字が教えてくれることを確認してから、どう動くか考えましょう」

感情論ではなく、税理士として当然行う財務確認の延長として話を進めることで、経営者が防御的にならずに向き合えます。

パターンB:「もう限界」型

すでに精神的に限界を超えており、「どうすればいいかわからない」という状態です。このパターンは、適切に弁護士につなげれば早期解決が可能ですが、放置すると夜逃げや最悪の場合の自傷行為につながるリスクもあります。

当事務所が担当した案件の中で、最も追い詰められた状態でいらっしゃった社長の話をします。

来所された社長は、会話は支障なくできます。口頭で自分の名前も言えます。しかし委任状に氏名を書こうとすると、漢字が出てこない。何度もボールペンを手に取るのですが、書けない。認知症ではありません。複数の仕入先と10人以上の従業員から、常軌を逸するほど執拗に追い詰められ続けた結果でした。一緒に来所された奥様も、何日もまともに眠れていないご主人の状態は知っていたものの、ここまでとは...、という表情でした。

私はその場で委任契約を後日に回し、事務所近くの心療内科を検索しました。夕方でも予約なしで診てもらえる医院を見つけ、地図をプリントアウトして医師へのメモ書きを添えて渡し、「これを医師に渡してください。とにかく眠れるだけ眠ってください」と伝えました。

2日後、土色だった顔色はかなり改善され、社長は無事に自分の名前を書くことができました。すべての手続きが終わった後、社長は完全に通常の状態に戻られました。

会社破産の相談は、法律の問題である前に、人の問題です。

→ 有効な伝え方:選択肢があることを先に伝える

「会社を閉めることは終わりではありません。正しい手続きを踏めば、個人の再出発ができます。まず専門家に話を聞いてもらいましょう」

「破産=人生の終わり」という誤解を解くことが最初のステップです。

パターンC:「弁護士には行きたくない」型

弁護士への相談に強い抵抗感を持つケースです。背景には「弁護士に頼むと会社が終わる」という思い込み、または過去に弁護士に冷たい対応をされた経験があることが多いです。

当事務所にいらっしゃる方からも「他の事務所に電話したら、事務職員からいきなり『お金はいくらありますか?』と聞かれ、あとは機械的な質問が続くだけで本当に冷たかった」「初回相談で弁護士に叱られた」という声をよく聞きます。

→ 有効な伝え方:「相談するだけ」のハードルを下げる

「弁護士に相談したからといって、すぐに何かが決まるわけではありません。選択肢を整理してもらうだけでもいいんです。私が信頼できる弁護士を紹介しますから、一度話だけ聞いてみませんか」

税理士が「この弁護士は信頼できる」と伝えることは、経営者の行動を大きく変えます。顧問税理士への信頼が、弁護士への信頼に転化するのです。

税理士として「やってはいけない」伝え方

善意からの言葉であっても、以下の伝え方は経営者を追い詰めるか、手続きを遅らせる結果になります。

税理士の役割は「事実を整理し、適切な専門家につなぐこと」です。それ以上でも以下でもありません。その役割を的確に果たすことが、顧問先にとっての最大の貢献です。

2-2 弁護士に引き継ぐ前に税理士がやるべきこと

税理士の準備が、手続きの速度と質を決める

弁護士が受任した後、破産申立てに向けた準備の大部分は「会社の財務・資産・負債の実態把握」です。この情報を最も正確に持っているのは顧問税理士です。

弁護士への初回面談前に税理士が情報を整理しておくことで、以下の効果が生まれます。

会社破産において、代表者の最大の関心の一つは「破産費用をできるだけ自己資金から出したくない」という点です。換価可能な会社資産(売掛金・保険解約返戻金・営業保証金・敷金等)の有無を事前に把握しておくことが、その実現につながります。費用を抑えるための具体的な方法については、「会社破産費用を安く抑える方法」をご参照ください。

最優先で準備すべき2つの資料

弁護士への引き継ぎにあたり、決算書や試算表よりも先に準備すべき資料が2つあります。当事務所では、法律相談の段階ですでに破産手続きに向けた準備が始まると考えており、この2つがあるだけで初回面談の質が大きく変わります

① 売掛金一覧(最優先)(メモ書きで可)

以下の情報を可能な限り具体的に記載してください。

売掛金は「いつ・いくら(概算)・どこに入るか」が明確になることで、事業停止のタイミングと費用の見通しが立ちます。これが最初に必要な情報です。特に、売掛金の日時と金額は、事業停止のタイミングに決定的な影響を及ぼします。

② 債権者一覧表(メモ書き・概算額で可)

正確な金額でなくて構いません。以下を網羅したメモ書き程度のリストがベストです。

なぜここまで詳細な債権者一覧が必要か——弁護士費用は借入総額ではなく債権者数によって変動します。100億円をメガバンク1行から借りているケースよりも、数万円の仕入れ先が10社あるケースのほうが、弁護士の業務量は多くなります。債権者の全体像を早期に把握することが、費用の見通しを立てるうえで不可欠です。

あわせて確認・整理しておくべき情報

上記2点に加え、以下の情報を弁護士に伝えることで、手続き設計の精度が上がります。

【資金状況】(メモ書き・概算額で可)
【人員・雇用】(メモ書き・概算額で可)
要注意項目:役員貸付金の実態確認

試算表の勘定科目に「役員貸付金」が計上されている場合、その実態を弁護士に正確に伝えることが極めて重要です

役員貸付金は、実際に代表者への貸付が行われているケースと、使途不明金の処理として計上されているケースの両方があります。破産管財人は就任後に税理士に直接確認することがあります(「これって実際の貸付ですか?それとも実質は使途不明金ですか?」)。

実際の貸付である場合、管財人は代表者個人に返還を請求する権限・義務があります。代表者が個人破産をしない場合は特に深刻な問題となるため、実態を事前に弁護士に伝えておくことが必要です。

事業継続の意向

「会社は閉めるが、事業は個人事業主として続けたい」という意向がある場合は伝えてください。破産手続きと事業譲渡を組み合わせる選択肢(事実上の「第二会社方式」)が生まれ、手続き全体の設計が変わります。詳細は第5章で解説します。

弁護士への引き継ぎサマリー(記載項目の例)(メモ書き・概算額で可)

初回面談前に以下の項目をA4用紙1枚にまとめて弁護士に渡すだけで、面談の質が大きく向上します。(無くても問題ありません。)

【会社概要】 会社名・業種(事業内容)・設立年

     (本店以外)支店・店舗・倉庫・工場・駐車場・社宅
【資金状況】 手元現金(      万円)/預貯金残高(      万円)
  今月末までの入金予定(売掛金)合計(      万円)
  その他資産:
  毎月の固定出金予定(返済・リース・賃料等の一覧)

【債権者の概要】 金融機関借入合計(     万円)
  債権者数(概算    社 [人])
  税金・社会保険料の滞納(有・無)/闇金・ ファクタリング利用(有・無)

【従業員・雇用】 従業員数(    名)/未払い給与(有・無)(  円)
   退職金規程(有・無)/過去の退職金支払い実績(有・無)

【要注意事項】 役員貸付金(有・無)/実態(実際の貸付・使途不明金処理)
   第三者保証人(有・無)

【意向】 事業継続の希望(有・無)

【自宅(所有)】(有・無)/居住継続の希望(有・無)※個人再生?

2-3 絶対にやってはいけないこと(税理士が誘導してはならない行為)

「善意の行動」が税理士自身を追い詰める

この章で解説する行為はいずれも、税理士が「顧問先のために何かしてあげたい」という善意から行うケースがほとんどです。しかし破産手続きにおける法的ルールを知らずに行動すると、経営者の手続きを困難にするだけでなく、税理士自身が法的責任を問われるリスクがあります。

以下の4つの行為について、なぜ問題なのか・何が起きるのかを具体的に解説します。

① 特定債権者への優先弁済の示唆(偏頗弁済・へんぱべんさい)

やってはいけない行為の例
なぜ問題か

破産手続きには債権者平等の原則があります。支払不能状態にある会社が特定の債権者だけを優先して弁済することは、偏頗行為(へんぱこうい)として破産管財人による否認権(ひにんけん)の対象となります。

否認権とは、破産手続開始前に破産者の財産が不当に流出・減少する等、債権者を害する行為があった場合、当該行為の効力による不都合を解消するために、破産管財人が行使できる権利です。

否認権が行使されると、優先弁済を受けた債権者は受け取ったお金を破産財団に返還しなければなりません。善意で「先に払ってもらえた」と思っていた取引先や親族が、後から管財人に返還請求されるという事態が生じます。事案によっては破産管財人が偏頗弁済を受けた人に対して訴訟提起までしますので、かえって大きな迷惑となってしまいます。

さらに深刻なのは経営者自身へのペナルティです。偏頗弁済は免責不許可事由とされており、免責が認められなくなる可能性があります。免責が認められなければ、破産手続きを経ても借金が残り続けることになります。

税理士として注意すべき時期

偏頗弁済の問題は、弁護士に依頼する前の段階から発生します。弁護士に破産手続きの依頼をする前であっても、継続的な支払いが困難になっていたり、なりつつある時期に特定の債権者にだけ優先的に弁済すれば、免責不許可事由に当たる可能性があります。

「まだ弁護士に頼んでいないから大丈夫」という認識は誤りです。顧問先が資金繰りに行き詰まっている状況であれば、その時点から税理士として安易な助言は慎む必要があります。

② 資産の隠匿・移転への関与

やってはいけない行為の例
なぜ問題か

破産者の財産を第三者に無償で贈与したり、適正価格よりも安く売却したりする行為は、破産者の財産自体を減少させる詐害行為として、否認対象行為となります。

これらの行為は民事上の否認リスクにとどまらず、刑事責任に直結します。

財産の隠匿・損壊・不当処分は破産法上の詐欺破産罪(破産法265条)に該当し、10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、この行為に関与・加担した税理士は共犯(刑法60条)として同罪に問われるリスクがあります。

「経営者に頼まれたからやった」「悪意はなかった」という事情は、刑事責任を免れる理由にはなりません。このような依頼を受けた場合は、明確に断り、速やかに弁護士への相談を促してください。

③ 顧問料未収分の回収を急ぐことのリスク

やってはいけない行為の例
なぜ問題か

税理士も顧問先に対する債権者の一人です。支払不能状態にある顧問先から未収顧問料を優先的に回収する行為は、①と同様に偏頗弁済として否認権の対象となります

管財人が否認権を行使した場合、受け取った顧問料を破産財団に返還しなければなりません。急いで回収した顧問料が、後から全額返還を求められるという事態になります。

また、顧問先の経営者との信頼関係にも深刻なダメージを与えます。「破産しそうになったら税理士に見捨てられた」という印象を経営者に与えることは、専門家としての評判を大きく損ないます。

現実的な対応

顧問料の未収が発生している場合、その回収は破産申立て後に破産債権として届け出る方法によるべきです。優先的に回収できる金額は限定的ですが、それが適法な手続きです。回収の見通しについては、弁護士に確認することを推奨します。

残務処理については別扱いとなります

営業停止後に(破産申立の前であっても)税理士の協力が必要となる残務処理があります。

これらの業務は、滞納していた顧問料とは異なり、残務処理という新たな業務に対する対価です。破産申立の前後を問わず、適法に報酬を受け取ることができます。

当事務所では、(破産申立の前でも)社長に残務処理について「業務の対価として相当な金額であれば税理士さんに支払っても大丈夫です」とお伝えしています。管財人もこの点についてクレームを出すことはありません。

税理士として顧問先から残務処理を依頼された場合、滞納顧問料の回収(偏頗弁済として禁止)と残務処理の対価(適法)は明確に区別して対応してください。

なお、顧問料の滞納額が大きい場合、税理士が残務処理への協力を断るケースがあります。それ自体は税理士の判断として十分に理解できるものです。ただ、残務処理が滞ると、従業員の失業給付の申請が遅れる等、関係のない第三者(元従業員)に不利益が生じますので、(可能な限り)残務処理への協力をお願いしています。

④ 債権者との交渉・非弁行為への関与

やってはいけない行為の例

これらは第1章1-2で解説したとおり、弁護士法第72条が定める非弁行為(弁護士の専管業務への無資格者の参入)に該当する可能性があります。違反した場合は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(弁護士法77条)が科されます。

これらを行った場合に税理士自身が負う法的責任

以上の行為に関与した場合、税理士が負うリスクを整理します。

行為 民事責任 刑事責任 税理士資格への影響
偏頗弁済の示唆・誘導 損害賠償請求(管財人・他の債権者から) 懲戒処分の可能性
資産隠匿・移転への関与 損害賠償請求 詐欺破産罪の共犯(拘禁刑10年以下) 登録取消しの可能性
顧問料の優先回収 否認・返還請求
非弁行為 損害賠償請求 拘禁刑2年以下・罰金300万円以下 懲戒処分の可能性
残務処理対価の受領 問題なし

税理士法第45条は、税理士が「不正の行為」または「信用失墜行為」を行った場合の懲戒処分(戒告・2年以内の業務停止・登録取消し)を定めています。上記の行為が発覚した場合、税務当局や税理士会による懲戒手続きの対象となる可能性があります。

「断る勇気」が税理士自身を守る

経営者から「何とかしてほしい」と頼まれたとき、長年の顧問関係があればあるほど、断ることに心理的な抵抗を感じるものです。

しかし、上記の行為に関与することは、顧問先の経営者を助けるどころか、経営者の免責を妨げ、関係する第三者に損害を与え、税理士自身の資格と評判を失うリスクを生みます。

「それは私の仕事の範囲外です。すぐに弁護士に相談しましょう」と明確に伝えることが、顧問先にとっても税理士自身にとっても最善の行動です。

第3章 会社破産の手続きの全体像(税理士が関与する場面だけ押さえる)

この章について

会社破産の手続きは弁護士が主導します。税理士として全工程を詳しく知る必要はありません。この章では「手続きの全体像を図表1枚で把握すること」と「税理士が実際に動く場面だけ」に絞って解説します。

3-1 手続きの全体像(図表)

会社破産の手続きは、大きく「申立て前」「申立て後」の2段階に分かれます。法人(会社)には免責手続きは不要であり、破産手続きが終結した時点で法人格が消滅します。代表者が個人破産を同時に申し立てる場合は、会社の手続きと並行して免責手続きが進みます。

【図表】会社破産の手続きの全体像

段階 内容 目安期間 税理士の関与
① 弁護士への相談・受任 弁護士が依頼を受け、受任通知を全債権者に発送。債権者からの取り立てが即日停止 相談当日〜翌日 ◎ 紹介・情報引き継ぎ
② 費用積立・申立て準備 弁護士費用・予納金の積立。事業停止・従業員解雇・賃貸借契約解約等の「身軽化」を進める 1ヶ月〜1年以上 ○ 資料提供・残務処理
③ 破産申立て 弁護士が裁判所に申立書類を提出 申立て当日
④ 破産手続開始決定 裁判所が破産手続きの開始を決定。破産管財人が選任される 申立てから約1週間
⑤ 管財業務 管財人が財産の調査・換価・債権者への配当を行う。債権者集会が開催される 開始決定から3ヶ月〜2年 ○ 帳簿・資料の提供、確定申告
⑥ 手続きの終結・廃止 配当が完了すれば「終結」、配当なしで終わる場合は「廃止」。法人格が消滅 ○ 確定申告(清算確定申告)
⑦ 代表者の免責許可決定 裁判所が代表者個人の免責を許可。残債務が消滅し、代表者の個人再起が可能になる 管財事件で開始決定から3ヶ月〜

3-2 税理士が知っておくべき3つのポイント

結論から言えば、弁護士(破産申立代理人または破産管財人)から税理士に直接連絡が来ることは、実務上ほとんどありません。税理士が主体的に動く場面も同様です。

ただし以下の3点は、税理士として「知っておくべき」情報として押さえてください。

① 財務資料は「弁護士→社長→税理士」の順で動く

申立書類の作成に必要な財務資料(試算表・決算書・預金通帳等)は、タキオン法律事務所では、弁護士が社長に提出を求めます。社長が手元に持っていない場合に限り、社長から税理士に再交付を依頼するという流れになります。

税理士に直接連絡が来ることは原則としてありません。ただし顧問先の社長から「税理士さんに○○を出してもらえますか」と連絡が来た際には、速やかに対応していただけると手続きがスムーズに進みます。

② 破産管財人から税理士に直接確認が来る場合がある

破産管財人が税理士に直接連絡を取ることが(多くはないですが)あります。主な内容は「役員貸付金の実態確認」です(「これは実際の貸付ですか?そうではなく使途不明金ですか?」)。

この確認に対しては、事実をそのまま正確に伝えることが適切な対応です。管財人は中立の立場であり、税理士に対して敵対的に接することはありません。

③ 清算事業年度の確定申告は実務上行われないケースが多い

清算事業年度の確定申告については、実務上は申告が行われないケースが多いという点を税理士として知っておいてください。

理由は以下の3点です。

第1に、引継予納金が最低額(20万円)の案件が多く、申告書作成にかかる税理士費用や管財人の労力に見合う財団の増殖が見込めない場合、管財人の判断で申告が省略されることがあります。

第2に、破産会社は通常大幅な債務超過であり、清算事業年度において所得が生じない・法人税還付も見込めないケースがほとんどであるため、申告の実質的な意義が薄い場合があります。

第3に、残余財産がゼロで確定するケースがほとんどであり、清算結了時に申告義務が発生しないと判断されることがあります。

申告が必要かどうかの判断は管財人が行います。申告を行う場合、管財人が付き合いのある税理士に依頼するケースが多く(意思疎通が容易)、破産会社の顧問税理士に依頼が来るとは限りません。顧問税理士として「申告対応が自分に来るはず」と想定しておく必要はありません。

3-3 詳細は各リンク先へ

手続きの各段階について詳しく知りたい場合は、以下の解説ページをご参照ください。

第4章 税理士自身を守るリスク管理

第2章・第3章では「顧問先のために税理士が何をすべきか」を解説しました。この章では視点を変え、税理士自身を守るために知っておくべきリスクを整理します。

会社破産の局面で税理士が直面するリスクは4つです。

です。いずれも事前に把握しておくことで、適切な対応が可能になります。

4-1 顧問契約は破産開始決定と同時に自動終了する

法的根拠:民法第653条第2号

委任契約の当事者である委任者または受任者のいずれかについて破産手続が開始された場合、当該委任契約は当然に終了します(民法653条2号)。委任者または受任者のいずれかが破産手続を開始すると委任契約は、契約解除を待たずに、当然に終了します。

税理士と顧問先の間の顧問契約は委任契約です。したがって、顧問先の破産手続開始決定と同時に、顧問契約は自動的に終了します。解約の意思表示は不要であり、双方が何もしなくても法律上当然に終了します。

税理士として注意すべき2つの問題

① 申告期限が迫っている場合の対応

顧問先が破産した後、「自分はどうすればよいか」と税理士から当事務所に問い合わせをいただくことが時々あります。その際の回答は明確です。

「報酬を支払えない状況ですので、何もしていただく必要はありません。」

月次試算表や直近の決算書があれば破産管財人は助かりますが、そのような資料がないまま破産申立をするケースがほとんどです。直近3年間決算をしていない会社の破産申立が裁判所に受理されるケースもあります。管財人も、報酬を支払えない税理士に資料作成を要請することはほぼありません。

税理士として「何かしなければ」と気を使う必要はありません。顧問先の破産が決まった時点で、税理士としての実務上の役割はほぼ終わっています。

② 破産開始決定後に知らずに業務を続けた場合

委任者について破産手続が開始された場合において、受任者が、破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理したときは、これによって生じた債権について、破産債権者としてその権利を行使することができます(破産法57条)。

つまり、破産開始決定を知らずに業務を継続した場合でも、その業務に対する報酬は破産債権として届け出ることができます。ただし実際の回収については次項をご参照ください。

4-2 顧問料未収の回収可能性

顧問先が破産した場合、未収の顧問料はどうなるのか。税理士として最も気になる点の一つです。

原則:一般破産債権として届け出る

未収顧問料は、破産手続における一般破産債権(優先権のない通常の債権)として届け出ることになります。破産管財人から債権届出書の提出を求められますので、期限内に届け出てください。

現実的な回収率と、税理士の本音

一般破産債権への配当は、財団が充実している案件を除き、ゼロまたは少額にとどまることがほとんどです。

当事務所の経験では、弁護士から受任通知を送付しても、90~95%の税理士は債権調査票を返信してこられません

この背景には、税理士の率直な判断があると思われます。「どうせ配当はゼロか少額。面倒な手続きに関わりたくない。破産債権の届け出もしない。債権者一覧表にも載せてほしくないが、それを破産申立代理人に伝えることすら億劫」——これが多くの税理士の本音のようです。

裁判所からの正式な書類(破産債権届出書)にだけ対応するという税理士もいますが、いずれにせよ未収顧問料の回収には期待しすぎないことが現実的な対応です。

なお、破産債権の届け出をしない場合、配当がある案件でも配当を受け取る権利を失います。わずかな金額であっても届け出をするかどうかは、費用対効果を考えて判断してください。

4-3 「損害賠償リスク」の大幅縮小

税理士が顧問先の破産に関連して損害賠償請求を受けるリスクは、実務上ほぼ存在しないというのが実態です。

当事務所がこれまで破産申立を行った案件で、税理士の責任が問われた事例は1件もありません。

さらに踏み込んで言えば、明らかに顧問税理士が感知していると思われる、あからさまな粉飾決算の事例が2件ありました。それでも破産管財人は、面接(管財人が破産者本人と面談する手続き)において「ああ、そうですか」と何の関心も示しませんでした。融資をした銀行に情報提供するようなこともありませんでした。

これは管財人が職務を怠っているのではありません。管財人の仕事は財産を換価して債権者に配当することであり、税理士の責任追及は管財人の業務範囲外だからです。

繰り返しになりますが、税理士として本当に気をつけるべきは「やってはいけないことをしないこと」(第2章2-3参照)であり、「何かをしなかったこと」で責任を問われるリスクは実務上ほぼ存在しません。

破産管財人の主な業務は、財産調査・管理・換価、債権者への配当、破産者の調査(免責不許可事由の確認)、否認権の行使です。管財人の関心は「破産財団をいかに増やし、債権者に配当するか」という点に集中しており、税理士の対応を問題にすることは管財人の業務範囲外です。

「弁護士介入を適切なタイミングで勧めなかった」という「不作為」についてはなおさらです。偏頗弁済への関与のような「作為」の場合でさえ、管財人が税理士の責任を追及することはほぼありません。

ただし、第2章2-3で解説した禁止行為(資産隠匿への関与・非弁行為等)への積極的な関与は、損害賠償・刑事責任・懲戒処分のリスクを伴います。「何もしないこと」ではなく「やってはいけないことをしないこと」が、税理士自身を守る実質的なリスク管理です。

4-4 懲戒リスク:税理士資格を守るために

税理士法第45条・第46条は、税理士が不正行為や信用失墜行為を行った場合の懲戒処分を定めています。処分の種類は戒告・2年以内の業務停止・登録取消しの3段階です。

会社破産の局面で懲戒リスクが生じる行為は以下のとおりです。

行為 懲戒リスク
偏頗弁済への誘導・関与 信用失墜行為として懲戒処分の対象
資産隠匿・移転への関与 不正行為として登録取消しの可能性
虚偽の帳簿・申告書の作成 不正行為として登録取消しの可能性
非弁行為 信用失墜行為として懲戒処分の対象

税理士資格は、長年かけて築いたキャリアの基盤です。顧問先への善意が、自らの資格を失う結果につながることがないよう、「できないことはできない」と明確に伝える判断が、税理士自身を守る最善の行動です。

第4章のまとめ:税理士が「守られる」ための4つの原則

原則 具体的な行動
契約の自動終了を把握する 破産開始決定と同時に顧問契約が終了することを認識し、進行中の業務を適切に引き継ぐ
顧問料は適法に請求する 未収分は破産債権として届け出る。残務処理の対価は別途請求できる
早期に弁護士につなぐ SOSサインを察知した時点で弁護士相談を勧めることが、善管注意義務の履行であり、自分自身への最大のリスク管理でもある
禁止行為は断固として断る 善意からの依頼であっても、偏頗弁済・資産移転・非弁行為への関与は明確に断る

社労士・金融機関のご担当者の方へ

このページは税理士の先生向けに作成しています。社労士の先生・金融機関のご担当者向けには、それぞれの立場に特化した解説ページをご用意しています。顧問先・融資先の倒産対応でお役立てください。

第5章 弁護士との連携を成功させる実務ポイント

この章について

第1章から第4章まで、税理士として「知るべきこと」「やるべきこと」「やってはいけないこと」「自分を守ること」を解説してきました。この章では、タキオン法律事務所との具体的な連携方法をご案内します。

5-1 どのタイミングで、どう弁護士につなぐか

「弁護士に相談してみませんか」の切り出し方

第1章・第2章で解説したSOSサインが複数重なった時点が、弁護士につなぐべきタイミングです。ただし「弁護士に相談しましょう」という言葉は、経営者によっては「もう終わりだ」というメッセージとして受け取られることがあります。

以下の言い回しが実務上有効です。

「弁護士に相談したからといって、すぐに何かが決まるわけではありません。今の状況を法律の専門家に整理してもらうだけでいいんです。私が信頼できる弁護士を紹介しますから、一度話だけ聞いてみませんか」

「選択肢を整理してもらう」という表現が鍵です。破産を勧めているのではなく、専門家に状況を見てもらうという提案として伝えることで、経営者の心理的抵抗が下がります。

経営者が弁護士相談を拒む場合

経営者が弁護士相談に抵抗を示す背景には、「弁護士に頼むと会社が終わる」という誤解、または過去に弁護士から冷たい対応を受けた経験があることが多いです。

当事務所にいらっしゃる方から頻繁に耳にするのは、「他の事務所に電話したら、事務職員からいきなり『お金はいくらありますか?』と聞かれ、あとは機械的な質問が続くだけで本当に冷たかった」「初回相談で弁護士に叱られた」という声です。こうした経験が、弁護士への相談自体をためらわせる原因になっています。

このような経営者には、次の言葉が有効です。

「話しにくかったら遠慮なく言ってください。どんな状況でも、まず話を聞くことから始める弁護士です。相談して損はしません」

税理士からの「この弁護士は信頼できる」という一言が、経営者の行動を大きく変えます。顧問税理士への信頼が、弁護士への信頼に転化するのです。

当事務所の相談対応について

会社破産のご相談では、経営者の方が「人生で最も辛い決断」を打ち明ける場面に毎回立ち会います。その重さを受け止めることは、法律知識と同じくらい重要だと考えています。ご相談者から「本当に話しやすかった」「やることが明確になると、心が楽になった」と言っていただけることが、当事務所として最も大切にしていることの一つです。

5-2 タキオン法律事務所の強み:税理士に知っておいていただきたい5つのポイント

紹介する弁護士を選ぶ際、税理士として以下の5点を確認することをお勧めします。当事務所がそれぞれにどう対応しているかを合わせてご案内します。

① 費用が用意できない依頼者を受け入れられるか

「今すぐ費用を全額用意できない」という状況は、会社破産の相談で最も多い状況の一つです。当事務所では受任案件の約22%(48件/222件|実績222事例[2025年末時点])が「1年以上の費用長期積立型」です。費用の目途が立たない段階でも、まず相談いただくことで解決策が見つかるケースが多くあります。

顧問先に「費用がないから弁護士に相談できない」という判断をさせないでください。

② 会社破産と事業譲渡を組み合わせた対応ができるか

「会社は閉めるが、事業は続けたい」という経営者の希望に応えるには、破産手続きと事業譲渡を組み合わせる実務経験が必要です。

当事務所では、長期積立期間中に積み立てた費用を事業譲渡の対価として位置づけ、かつ同時に弁護士費用・管財人への引継ぎ予納金として充当するという方法を実践しています。

具体例を示すと以下のとおりです。

例:2年間かけて月5万円ずつ、計120万円を積み立てた場合。この120万円を事業譲渡の対価として位置づけ、かつ同時に弁護士費用・管財人への引継ぎ予納金として充当します。仮に130万円が対価として適切と裁判所・管財人が判断しても、残り10万円を破産財団に組み入れるだけで済みます。積立金の最も有効な活用が可能となります。

この方法を実現するには、長期積立の受任体制と、裁判所・管財人との実務上の信頼関係の両方が必要です。多くの事務所では対応できないスキームです。

③ 費用・手続きの見通しを明確に説明できるか

初回相談で「費用はいくらですか」「どのくらい時間がかかりますか」という質問に対して、明確に答えられる弁護士かどうかは重要な確認点です。当事務所では費用・期間・手続きの流れを初回相談で具体的にご説明します。

※ 費用の詳細については、「会社破産に必要な費用」をご参照ください。

④ 会社破産の実績・対応体制があるか

当事務所は「会社破産.com」を運営し、会社破産・代表者個人破産を多く取り扱っています。実績については、「タキオン法律事務所の実績222事例」をご参照ください。

なお当事務所では、会社破産のみ、または会社破産と代表者個人破産(同時申立)を取り扱っています。個人事業主単独の個人破産は原則として受け付けていませんが、顧問先が個人事業主の場合はまずご相談ください。

⑤ 税理士からの相談・紹介に慣れているか

税理士からの紹介案件は、すでに財務情報が整理されており、スムーズに手続きが進む傾向があります。当事務所では税理士からの紹介案件を受け付けており、紹介の流れについて丁寧にご案内します。

5-3 タキオン法律事務所への相談・紹介の流れ

税理士の先生からご紹介いただく場合の流れ

紹介の形式は問いません。以下のいずれの方法でも対応しています。

費用面でご不安がある場合

「顧問先に費用を用意できる余裕があるか不安」という場合でも、まずご相談ください。費用の積立方法・長期対応の可否を含めて、初回相談でご説明します。税理士の先生からのご紹介の場合、費用・手続きの見通しについて特に丁寧にご説明します。

紹介に関する報酬・謝礼について

弁護士職務基本規程および各弁護士会の規程により、弁護士が紹介の対価として金銭を支払うことは禁止されています。当事務所でも紹介料・謝礼のお支払いは行っておりません。あらかじめご了承ください。

その代わりとして、ご紹介いただいた後に税理士の先生から当事務所に、進捗状況などにつきお問い合わせをいただいた場合は、依頼者の同意を得た範囲内で状況をお伝えします。

※ 法律事務所の選択については、「会社破産に関する法律事務所の賢い選び方は?」をご参照ください。

第6章 まとめ:顧問先を守り、自分を守るために

このページを通じて伝えたかったことは、一つです。

財務数字を最初に把握できる立場にある税理士が、適切なタイミングで弁護士につなぐことが、顧問先にとっての最善であり、税理士自身を守る最善でもある。

「早すぎる相談」は存在しない

当事務所では13年間で600~700件以上の会社破産の法律相談を受けてきました。その中で「さすがにこの段階での相談は早すぎます」と伝えた経営者は、1人もいません。

どこも痛くも悪くもないのに緊急病院に行く人はいません。しかし会社の財務が悪化する場合、「まだ大丈夫」という感覚が続いた後、気づいたときには手遅れというケースが大半です。早すぎる相談はありません。遅すぎる相談があるだけです。

「ギリギリ間に合ったケース」は10〜15%

当事務所の経験では、ご相談時点で「ギリギリ間に合ったタイミング」と感じるケースは全体の10〜15%程度です。残りの85〜90%は「あと3ヶ月、いやせめて1ヶ月早ければ」という状況です。

では「ギリギリ間に合った」とは何を意味するのか。当事務所では以下の4つの条件がすべて揃った場合に、そう判断しています。

① 代表者が個人資産から破産費用を持ち出さずに済んだ

売掛金・保険解約返戻金・営業保証金・敷金等の会社資産の換価だけで、破産費用をすべて賄えた状態です。代表者個人の預金や親族からの借入に頼らずに済んだということは、再出発の資金が手元に残るということです。

② 家族・親族・友人・知人・婚約者からの借入がなかった

経営が苦しくなると、経営者は身近な人に頭を下げて資金を借りるケースが増えます。破産すれば、これらの方々への返済も免除の対象となります。助けてくれた人たちが結果的に損をする——この事態を避けられたかどうかが、2つ目の判断基準です。

③ 従業員への給与未払いがなかった

未払賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構による立替払)があるとはいえ、支給額は未払賃金の80%に限定され、解雇予告手当は対象外です。従業員に一切の迷惑をかけずに事業を停止できたかどうかが、3つ目の判断基準です。

④ 闇金・危険なファクタリング会社を利用する前だった

資金繰りが限界に近づくと、通常の金融機関から融資を受けられなくなり、高利のファクタリングや事実上の闇金に手を出すケースが増えます。弁護士が介入しても取り立てをやめない悪質業者の存在は、経営者だけでなく取引先にも深刻な影響を与えます。この段階に至る前に相談できたかどうかが、4つ目の判断基準です。

税理士だからこそ、この「間に合う」を実現できる

上記4つの条件を見ると、いずれも「財務状況の悪化が深刻になる前」という共通点があります。そして財務状況の悪化を最初に数字として把握できるのは、顧問税理士だけです。

月次試算表・資金繰り表にSOSサインが現れた段階で「一度弁護士に話を聞いてみませんか」という一言を伝えることが、顧問先の経営者とその家族・従業員・取引先を守ることに直結します。

その「一言」のために、このページが少しでも役立てれば幸いです。

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第7章 よくある質問(Q&A):税理士から寄せられる実務上の疑問

Q1. 期限切れ欠損金を利用して節税できますか?また、役員や親族に「第二次納税義務」が及ぶケースはありますか?

【A】期限切れ欠損金の利用は可能ですが、第二次納税義務のリスクを先に確認してください

期限切れ欠損金とは、繰越控除の期限(原則10年)が切れた欠損金です。通常、赤字(欠損金)を繰り越して利益と相殺できるのは10年間ですが、会社を解散・清算する場合に限り、この期限が切れた古い欠損金も「残余財産がない(債務超過である)」などの一定の要件を満たせば、資産売却益などと相殺して税金をゼロにすることができます(法人税法第59条)。

ただし会社を畳む際に税理士として注意すべきは、第二次納税義務の問題です。会社が税金を納付できない場合、一定の条件下で役員や親族等に納税義務が波及することがあります。

波及するケース(代表的なもの)

波及しないケース

会社を畳む際に役員・親族への財産移転が生じる場合は、破産申立前に弁護士と税理士が連携して対応方針を確認することが不可欠です。

Q2. 会社が滞納した税金・社会保険料は、破産後に代表者個人に請求されますか?

【A】原則として請求されません。ただし「納税保証書」への署名がある場合は例外です

会社が破産手続きを経て法人格が消滅すると、会社が滞納していた税金・社会保険料等の公租公課は原則として消滅します。代表者個人にその支払義務が移行することはありません

実務上、税務署の担当者が「会社の滞納税金は代表者個人に請求できる」というニュアンスで話すケースが時々あります。しかしこれは事実に反します。税理士として顧問先の代表者から「税務署にそう言われた」と相談を受けた場合は、正確な情報をお伝えください。

【例外】納税保証書への署名がある場合

代表者個人が、納税の猶予等を受けるにあたって連帯保証人として「納税保証書」に署名押印している場合は、個人として滞納分の納付責任を負います。

この点は見落とされやすいため、税理士として以下を確認することを推奨します。

【実務上の運用】代表者が同時破産する場合

もっとも、代表者個人が納税保証書に署名しており、かつ会社と同時に個人破産を申し立てる場合、実務では、税務当局が請求を事実上放棄・免除するケースが多いようです。

ただし、これは税務当局の裁量による運用であり、法的に保証されたものではありません。対応は個別案件によって異なりますので、弁護士への早期相談が重要です。

※ 「実績222事例」の【誤解「会社の滞納税は、会社破産すると個人に移行」】をご参照ください。

Q3. 解雇予告手当(1ヶ月分)は支払わなくていいのですか?

【A】支払い義務はありますが、現実には「未払債権」として扱うケースがほとんどです

労働基準法上、会社は従業員を即日解雇する場合、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります。

しかし、会社破産の場面では、支払いのための資金が残っていないケースがほとんどです。その場合、解雇予告手当は未払債権として扱われます。

注意点として、解雇予告手当は未払賃金立替払制度の対象外です。従業員は立替払を受けることができず、破産手続きにおける一般債権者として扱われます。やむを得ない事情ですが、従業員への説明は弁護士を通じて誠実に行うことが重要です。

なお、大規模案件(負債額が大きい・債権者が多い・従業員が多い・支店が多い等)では、裁判所と事前に協議することがあります。その際、裁判所は「従業員への給与支払いより未払賃金立替払制度の利用を優先する」方向で調整することが多いです。

これは、破産財団の原資を確保し、正当な破産管財人報酬を支払えるようにするためでもあります。また、金融機関や取引先の債権者から見ると「内部の人間である従業員を優先して破産財団から支払うことへの公平感」という観点も、裁判所が考慮する背景にあります。

Q4. 未払いの源泉所得税や住民税はどう処理すればいいですか?

【A】「納付義務」は残りますが、支払えない場合は破産手続きに委ねます。ただし住民税の切り替え手続きだけは急いでください

税理士として最も苦慮する点の一つです。順に整理します。

源泉所得税

会社が倒産しても、従業員から預かった源泉所得税の納付義務は会社に残ります。ただし支払えない場合は「滞納」として破産手続に委ねます。破産開始決定後は、租税債権として管財人が財団から優先的に支払う努力をします。財産がなければ事実上消滅(免責に近い状態)します。

住民税(特別徴収)

住民税については、解雇と同時に「普通徴収」への切り替え手続きを急いでください。ただし、滞納した特別徴収分(住民税)の支払義務はあくまで会社の義務であるため、滞納分につき市区町村から従業員個人や代表者個人へ代わりに請求されることはありません。

Q5. 社員にはいつ倒産を伝えればいいですか?

【A】原則として「事業停止当日(Xデー)」です。事前告知は重大なリスクを生みます

税理士として顧問先から「いつ社員に言えばいいか」と相談された場合は、以下の原則を伝えてください。

会社破産は「隠密性」が極めて重要です。

事前に従業員に告知することで、以下の深刻なリスクが生じます。

リスク①:情報流出による資産保全の失敗

パニックになった従業員がSNSに書き込んだり、取引先に連絡したりすることで、予定していた資産保全ができなくなります。債権者が殺到し、在庫・パソコン等を持ち去るケースがあります。

リスク②:差し押さえのリスク

従業員がうっかり税務署・年金事務所からの電話に売掛先と売掛金額を回答してしまい、差し押さえが実行されるケースがあります。当事務所でも実際に経験した事案です。

リスク③:従業員自身による持ち出し

自暴自棄になった従業員が、会社の備品・現金等を持ち出す(自力救済)ケースがあります。

以上の理由から、従業員への告知はXデー当日、事業停止と同時に行うことが原則です。告知のタイミング・方法・伝える内容については、弁護士が具体的に設計します。顧問先から相談を受けた際は、「弁護士と相談してから決めましょう」と伝えてください。

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代表弁護士 藤沢裕一(東京弁護士会所属)執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)
・2012年 注力分野「会社破産」のタキオン法律事務所を開設|「会社破産.com
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