金融機関担当者のための会社破産対応ガイド|融資先倒産時に知るべき実務と債権回収の現実

執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)

融資先の経営者から「もう返済が続けられない」と連絡が来たとき、または弁護士からの受任通知が突然届いたとき、金融機関の担当者としてどう動くべきか。

融資先の財務状況を定期的に把握している金融機関担当者は、会社破産において「最も早く危機を察知できる立場」の一つです。しかし破産手続きそのものは弁護士の専管業務であり、受任通知が届いた後の行動には厳格な法的制約があります。

このページでは、会社破産.comを運営する弁護士が、金融機関担当者が実務で直面する以下の疑問に答えます。

第1章 受任通知が届いたとき:担当者がすべき初動対応

受任通知(介入通知)とは何か

受任通知(介入通知)とは、弁護士が破産申立ての依頼を受けた旨を全債権者に通知する書面です。受任通知が届いた時点で、以下の法的効果が発生します。

受任通知到着後にやってはいけないこと

受任通知到着後に個別の回収行為を行った場合、破産管財人から否認権(ひにんけん)を行使され、回収した金銭・財産の返還を求められるリスクがあります。

受任通知到達後の入金分の相殺は禁止:実務上の注意点

銀行担当者として特に注意が必要な場面があります。

受任通知が到達したに会社口座に売掛金等が入金された場合、その入金分と銀行の貸付債権を相殺することは破産法第71条により禁止されています。

受任通知到達時点ですでに口座内に存在していた金銭との相殺は可能ですが、到達後の入金分は破産財団を構成する資産であり、相殺の対象外です。

実務上、到達後の入金分を誤って相殺してしまうケースが時々発生します。この場合は速やかに相殺を解除し、申立代理人弁護士に連絡してください。(事実上、時に生じうるミスであり、特に責任問題などにはなりません。)

破産申立代理人からの出金要請への対応

実務上、銀行によって対応が分かれる場面があります。

「破産管財人からの出金要請にのみ応じる」という対応をとる銀行があります。「口座内の金銭は破産財団を構成するものであり、破産管財人に引き継ぐべきもの」という理由です。銀行のリスク管理の観点からは理解できる対応ですが、法的には以下の問題があります。

法的な観点:銀行は出金要請を拒めない

破産申立代理人は、破産手続開始決定が出るまで有効な代理権を持っています。預金者である会社の正当な代理人からの解約・出金要請を拒否する法的根拠は、銀行側にはありません。

さらに実務上の問題として、破産申立には裁判所への予納金が必要です。銀行が口座を凍結したまま出金を拒否すると、予納金が確保できず破産手続きそのものが開始できないという本末転倒な事態を招きます。他の債権者全員に不利益を与えることになります。

実務上の落としどころ

銀行が破産申立代理人からの出金要請に応じる際の条件として、以下を求めることが多いです。

「絶対に払わない」と頑なに拒否されることは実務上ほぼありません。ただし「押し問答」が発生しやすい場面であることは事実であり、銀行担当者として判断に迷う場合は、法務部門・顧問弁護士への確認を推奨します。

なお、破産申立前の段階では、税務署・年金事務所等による会社口座への差押えは有効です。口座凍結中であっても差押えは銀行の行為とは独立して執行されます。申立費用の原資となる預金が差し押さえられると破産手続き自体が困難になるため、早期の破産申立が重要な理由の一つはここにもあります。

受任通知到着後に担当者がすべき3つのこと

① 社内報告と債権額の確定

受任通知到着を上長・管理部門に即座に報告し、融資残高・担保の状況・連帯保証人の有無を確定させます。

② 相殺の可否確認(最優先)

融資先が自行に預金口座を持っている場合、相殺は債権回収において最も確実な手段です。ただし相殺には要件があります。法務部門・顧問弁護士に速やかに相談してください。

③ 債権届出の準備

破産手続きが開始されると、裁判所から債権届出書の提出を求める通知が来ます。期限内に届け出ることが、配当を受ける権利の前提となります。

代表者個人口座の凍結と給与受取:実務上の対応

口座凍結に関連して、実務上時々生じる問題があります。

会社・代表者ともにA銀行に口座を持っており、受任通知到達後に両口座が凍結されたケースです。会社が営業停止した後、(破産申立の前に)代表者が新たな勤務先で働き始めたとします。しかし勤務先の給与振込口座がA銀行のみに限定されている場合、以下の問題が生じます。

「給与の入金はできるが、引き出しができない」状態です

給与の振込口座について使用者が特定の銀行を強制することは原則認められていません(労働基準法施行規則第7条の2)。しかし現実には事実上の強制が行われているケースがあります。

この状態では代表者個人の生活が成り立ちません。そもそも給与は破産費用の積立原資でもあり、引き出しができなければ破産申立自体が何年も進まないという本末転倒な事態になります。

銀行の実務上の対応

このような事情を申立代理人弁護士からA銀行に説明した場合、以下の対応をとってくれることが多いです。

「口座凍結の完全解除はできませんが、毎月の給与支給日等を事前に本人からご連絡いただければ、その約束日に限って出金を認める措置をとります。」

この対応は銀行として合理的かつ柔軟な判断であり、当事務所でも実際に経験しています。

銀行担当者として知っておくべきポイント

破産手続きが完全に終了すれば個人口座の凍結を解除する銀行がほとんどです。しかし本件のように破産費用積立のために数年を要するケースでは、凍結を維持したまま「約束日限定の出金」という運用が現実的な解決策となります。

このような相談が申立代理人弁護士から来た場合、法務部門と連携したうえで柔軟に対応していただけると、破産手続き全体がスムーズに進みます

第2章 破産手続きにおける金融機関の立場と債権回収の現実

担保権者(別除権者)と一般債権者の違い

金融機関が破産手続きにおいてどの立場に置かれるかは、担保の有無によって大きく異なります。

担保権者(別除権者)の場合

不動産に抵当権を設定している等、担保権を持つ債権者は別除権者として、破産手続きとは別に担保権を行使できます。破産管財人の許可なく担保不動産を競売にかけることが可能です。ただし担保価値で全額回収できなかった不足額については、一般破産債権として手続きに参加することになります。

無担保・一般債権者の場合

無担保の融資については、一般破産債権として破産手続の中で処理されます。特に破産されてしまうと売掛金の回収は困難となります。配当手続きにより会社財産は優先順位や債権額に応じて支払われますが満足のいく回収は難しいといえます。

配当の現実

金融機関担当者として、以下の現実を把握しておくことが重要です。

代表者保証人への対応

中小企業の融資では、代表者が個人として連帯保証人になっているケースがほとんどです。

会社が破産しても、代表者個人の連帯保証債務は消滅しません。ただし、代表者が会社と同時に個人破産を申し立てた場合、免責許可決定により保証債務も消滅します。

金融機関担当者として把握すべき実務上の重要点は以下のとおりです。

ABL(動産担保融資)と動産先取特権の衝突:決断の遅れが招いた実例

当事務所が担当した案件で、地銀のABL(Asset Based Lending:動産を担保とする融資)と仕入先の動産先取特権という、2つの別除権が衝突した珍しい事例がありました。守秘義務の観点から詳細は記載できませんが、この案件から得た教訓を以下にご紹介します。

この案件で実務上問題となったのは、担保権の優劣そのものではなく、地銀担当者の決断に長い時間を要したことでした。

経緯は以下のとおりです。

ABLがなければ、敷金・保証金でカバーできる期限までに破産予定会社が自ら在庫を撤去できていました。しかし地銀担当者が担保権を放棄するまでに長い時間を要したため、破産予定会社は撤去を実行しませんでした。

最終的に以下の損害が生じました。

破産予定会社でも金融機関でもない第三者(管理会社・オーナー・保証会社)が損害を受けるという結果になりました。

【教訓】ABLを設定している銀行の担当者は、破産申立の連絡を受けた時点で、できるだけ早く「担保権を行使するか・放棄するか」の結論を出すことが重要となります。

動産担保の場合、不動産と異なり価値の劣化・散逸が速く、決断が遅れるほど関係者全員にとって不利な結果をもたらします。価値が低いと判明した場合は「早期放棄」が最善の選択であることが多いです。

第3章 融資先の倒産を早期に察知するためのSOSサイン

金融機関担当者として、以下のサインが重なった場合は早期に融資先への確認と弁護士への相談勧奨を検討してください。

返済・口座の動きから見えるサイン

経営者の言動から見えるサイン

ファクタリングの利用については特に注意が必要です。貸金業登録が不要なため、事実上の闇金崩れの業者が参入しているケースがあります。金融庁も公式に注意喚起を発出しています(ファクタリングの利用に関する注意喚起|金融庁)。

早期に弁護士への相談を勧めることが、融資先・保証人・金融機関の三者にとって最善の結果につながります

第4章 弁護士への早期連携がなぜ重要か

金融機関が「早期連携」から得られるもの

融資先の破産が避けられない状況であれば、早期に弁護士が介入することで以下のメリットが生じます。

当事務所の経験では、ご相談時点で「ギリギリ間に合うタイミング」と言えるケースは全体の10〜15%程度です。残りの85〜90%は「あと3ヶ月、いやせめて1ヶ月早ければ」という状況です。早すぎる相談はありません。遅すぎる相談があるだけです。

融資先の経営者に弁護士相談を勧める際のポイント

融資先の経営者が弁護士相談に抵抗を示すケースがあります。「弁護士に頼むと会社が終わる」という誤解、または過去に弁護士から冷たい対応を受けた経験が背景にあることが多いです。

以下の言葉が有効です。

「弁護士に相談したからといって、すぐに何かが決まるわけではありません。選択肢を整理してもらうだけでいいんです。」

金融機関担当者からの「一度相談してみてください」という言葉が、経営者の行動を大きく変えることがあります。

税理士・社労士の先生方へ

このページは金融機関のご担当者向けに作成しています。税理士の先生・社会保険労務士の先生向けには、それぞれの立場に特化した解説ページをご用意しています。顧問先の倒産対応でお役立てください。

第5章 タキオン法律事務所との連携

当事務所の対応について

当事務所では、費用が用意できない依頼者についても、受任案件の約22%(48件/222件|実績222事例[2025年末時点])が「1年以上の費用長期積立型」で対応しています。「費用がないから相談できない」という状況でも、解決策が見つかるケースが多くあります。

また、「会社は閉めるが、事業は続けたい」という経営者の希望に対しては、破産手続きと事業譲渡を組み合わせた対応(事実上の「第二会社方式」)も可能です。

当事務所では、長期積立期間中に積み立てた費用を事業譲渡の対価として位置づけ、かつ同時に弁護士費用・管財人への引継ぎ予納金として充当するという方法を実践しています。

具体例を示すと以下のとおりです。

例:2年間かけて月5万円ずつ、計120万円を積み立てた場合。この120万円を事業譲渡の対価として位置づけ、かつ同時に弁護士費用・管財人への引継ぎ予納金として充当します。仮に130万円が対価として適切と裁判所・管財人が判断しても、残り10万円を破産財団に組み入れるだけで済みます。積立金の最も有効な活用が可能となります。

この方法を実現するには、長期積立の受任体制と、裁判所・管財人との実務上の信頼関係の両方が必要です。多くの事務所では対応できないスキームです。

紹介に関する報酬・謝礼について

弁護士職務基本規程により、紹介の対価として金銭をお支払いすることは禁止されています。当事務所でも紹介料・謝礼のお支払いは行っておりません。あらかじめご了承ください。

ご相談・ご紹介はこちらから:無料相談のご予約お問合せフォーム

代表弁護士 藤沢裕一(東京弁護士会所属)執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)
・2012年 注力分野「会社破産」のタキオン法律事務所を開設|「会社破産.com
・13年間で280件以上の会社破産案件を受任(2025年末時点)|「実績222事例

詳細プロフィールはこちら

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