執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)
顧問先の社長から「もう給料が払えない」と打ち明けられたとき、社会保険労務士としてどう動くべきか。
雇用・労務管理を日常的に把握している社労士は、会社破産において「従業員を守るための手続き」を最もスムーズに動かせる立場にあります。しかし破産手続きそのものは弁護士の専管業務であり、社労士が関与できる範囲には明確な限界があります。
このページでは、会社破産.comを運営する弁護士が、社労士が実務で直面する以下の疑問に答えます。
目次
社労士は、会社破産の局面において以下の業務を適法に行えます。
弁護士法第72条は、弁護士以外の者が法律事件に関する法律事務を業として行うことを禁じています。以下は弁護士の専管業務であり、社労士は関与できません。
社労士として安全な行動基準は「労務の事実整理はできる、法的判断と交渉は弁護士に委ねる」です。
社労士として会社破産の局面で最も実務的価値を発揮できるのが、未払賃金立替払制度の活用です。競合ページのほとんどは「従業員向け」の解説にとどまっていますが、このページでは社労士が実務で動く際に必要な情報に絞って解説します。
未払賃金立替払制度とは、会社が倒産し賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者を救済するため、独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」)が事業主に代わって未払賃金の一部を立替払する制度です(賃金の支払の確保等に関する法律に基づく)。
使用者側の要件として、1年以上の事業活動を行っていた会社に勤務しており、法律上の倒産(破産・民事再生など)または事実上の倒産(監督署の認定)に該当することが必要です。
労働者側の要件として、倒産した日の6ヶ月前から2年の間に退職した労働者であることが必要です。
立替払の対象となるのは、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している「定期賃金」および「退職手当」です。ただし、未払賃金総額が2万円未満のときは対象外です。
立替払される金額は未払賃金総額の80%です。退職日の年齢に応じて上限額が設けられています。
社労士として把握すべき重要な区別です。
| 法律上の倒産 | 破産手続開始決定・特別清算・民事再生・会社更生のいずれかの裁判所決定があった場合。この場合、破産管財人が証明者として機構への手続きを行います。 |
|---|---|
| 事実上の倒産 | 法的手続きを経ずに事業活動が停止した場合(社長の夜逃げ等)。所轄労働基準監督署長から事実上の倒産にあたると認定されたときには立替払の対象となります。この場合、労基署への認定申請が必要です。 |
社労士として実務上重要な点:法律上の倒産(破産申立て)を早期に行うことで、労基署の認定を待つ手間が省け、立替払いの実施が早まります。従業員の生活を守るためにも、早期の弁護士相談・破産申立てが重要な理由の一つはここにあります。
立替払の対象期間は「退職日の6ヶ月前から」です。給与遅配が始まった時期と退職日の関係を正確に把握することが、申請額の最大化につながります。
退職手当とは、退職手当規程等に基づいて支給される退職一時金および退職年金をいいます。中小企業退職金共済制度等の社外積立の退職金制度に加入し、他制度から退職金が支払われる場合は、支払われる額の確定を待って、その額を差し引いた残額が立替払の対象になります。
顧問先の退職金規程の有無・中退共への加入状況を事前に確認しておくことが、手続きをスムーズに進める鍵です。
解雇予告手当は未払賃金立替払制度の対象外です。従業員への説明を弁護士と連携して誠実に行うことが重要です(詳細は「税理士のための会社破産対応マニュアル」のQ&A参照)。
タキオン法律事務所では、社労士と直接やり取りをする場面はほぼありません。しかし営業停止後の残務処理において、社長から社労士にお願いするケースが多くあります。
営業停止後、以下の手続きは社労士の専門領域です。
※ 退職証明書は、以下の目的で従業員から請求されることがあります。
なお退職証明書は、従業員から請求があった場合に発行義務が生じます(労働基準法第22条)。会社破産の局面でも同様であり、請求があれば速やかな対応が必要です。
顧問先が破産する場合、顧問料の滞納が生じていることが多いです。この場合、滞納した顧問料の回収と残務処理の報酬は、法的性質が全く異なります。
当事務所では、(破産申立の前であっても)社長に「残務処理については業務の対価として相当な金額であれば社労士さんに支払っても大丈夫です」とお伝えしています。管財人もこの点についてクレームを出すことはありません。
残務処理を断ることは社労士の判断として理解できます。ただし残務処理が滞ると、従業員の失業給付の申請が遅れるという形で、元従業員に直接不利益が生じます。可能な限り対応していただけますと、従業員を守ることにつながります。
社長から「従業員にいつ話せばよいか」と相談されることがあります。社労士として以下の原則を伝えてください。
従業員への告知は「事業停止当日(Xデー)」が原則です。
事前告知には以下のリスクがあります。
告知のタイミング・方法・伝える内容は弁護士が設計します。「弁護士と相談してから決めましょう」と伝えることが最善の対応です。
税理士と同様に、社労士と顧問先の間の顧問契約(委任契約)は、顧問先の破産手続開始決定と同時に自動的に終了します(民法第653条第2号)。解約の意思表示は不要です。
未収顧問料は破産手続きにおける一般破産債権として届け出ることができますが、配当はゼロまたは少額にとどまることがほとんどです。現実的には回収を期待しすぎないことが適切な対応です。
税理士向けページでも解説したとおり、破産管財人の主な業務は財産の換価と債権者への配当であり、顧問専門家の責任追及は管財人の業務範囲外です。当事務所がこれまで破産申立を行った案件で、社労士・税理士を問わず顧問専門家の責任が問われた事例は1件もありません。
本当に気をつけるべきは「やってはいけないことをしないこと」——特に非弁行為と偏頗弁済への関与を避けることです。
このページは社会保険労務士の先生向けに作成しています。税理士の先生・金融機関のご担当者向けには、それぞれの立場に特化した解説ページをご用意しています。顧問先・融資先の倒産対応でお役立てください。
以下のサインが顧問先に現れた場合が、弁護士への相談を勧めるタイミングです。
「弁護士に相談したからといって、すぐに何かが決まるわけではありません。選択肢を整理してもらうだけでいいんです」という言葉が、経営者の心理的抵抗を下げる上で有効です。
当事務所では13年間(2025年時点)で600〜700件以上の会社破産の法律相談を受けてきました。「さすがにこの段階での相談は早すぎます」と伝えた経営者は1人もいません。早すぎる相談はありません。遅すぎる相談があるだけです。
当事務所では、費用が用意できない依頼者についても受任案件の約22%(48件/222件|実績222事例[2025年末時点])が「1年以上の費用長期積立型」で対応しています。「費用がないから相談できない」という状況でも、まず相談いただくことで解決策が見つかるケースが多くあります。
弁護士職務基本規程により、紹介の対価として金銭をお支払いすることは禁止されています。当事務所でも紹介料・謝礼のお支払いは行っておりません。あらかじめご了承ください。
※ お問い合わせの前に必ず『法律相談の流れ』をご確認ください。
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関東圏のみ対応(電話相談も同様)※関東圏とは『東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬・山梨』を意味します。上記地域以外は電話相談も対応しておりませんのでご了承ください。
※ お問い合わせの前に必ず『法律相談の流れ』をご確認ください。
営業時間(平日の夜・土日祝対応)
全日:午前9時~午後9時
※弁護士と事務員が在席していなくても電話代行サービスにつながります。その場合は氏名・住所・連絡先(例:タナカタロウ・東京都・携帯***-****-****)を伝えて頂ければ、できるだけ早いうちに弁護士から折り返しの電話を差し上げるようにしております。