家族に知られずに個人の自己破産はできますか?

不可能とまでは言えませんが、少なくとも会社破産に伴う個人破産の場合は、ご家族の協力が不可欠ですので、その後の生活のことなども含めて、ご家族には説明しておく方がよいといえます。

ここで「最も望ましくない結果」となってしまった事例を紹介します。

過去にタキオン法律事務所が経験したケースでも、会社の代表者(社長)が「どうしても妻に破産を知られたくない」と強い意志を有した方がいらっしゃいました。

「本当に絶対に知られたくないんですよ…。」と委任契約時に仰っていましたが、「理解はできますが、しかし、破産費用の積立が完了した時点で、個人破産の破産書類として生命保険の解約返戻金計算書(保険を解約した場合に返金される金額の計算証明書)は必ず提出する必要がありますので、現時点で絶対にその金額を確認してください。もし高額の解約返戻金があれば、本件会社の債務250万円(代表者個人の連帯保証債務も同じ250万円)は返済可能で、そもそも破産の必要すらないかもしれませんよ?」と確認をしました。

しかし、社長は「いえいえ、妻から生命保険や学資保険に加入していると聞いたことなんてないですよ。なので保険解約返戻金なんてないですよ。」とお笑いになったので、私は念のため、「奥様って、けっこうご主人に内緒で、もちろん悪い意図ではなく、むしろ家族のために良かれと思って生命保険やガン保険や(子供のために)学資保険に入ってることがあるんです。しかも、保険契約の名義人がご主人になっていることがあります。または、名義人が奥様でも、(ご主人が生活用として奥様に預けている)ご主人名義の口座から毎月保険料が支払われていることがあります。このように、契約名義人または保険料支払い口座の名義がご主人の場合は、あくまで当該保険解約返戻金は社長(ご主人)個人の資産とみなされてしまいます。そうすると個人破産の際に『財団組入れ(破産管財人に支払う)』の対象となってしまいます。ですので、とにかく現時点で確認だけはしてみてくださいね」とお伝えしました。

しかし、どうやらその時に社長は確認していなかった、ということが後になって判明しました。

委任契約時から約3年間かけて、社長は会社と個人の破産費用の積立を完了しました。
そこで、破産書類の説明として「保険関係で、保険契約の名義人が社長であるか、または保険料の支払い元の口座が社長名義のものは、社長個人の資産とみなされるので、奥様に確認して、もし該当する保険契約があれば解約返戻金計算書を取得して提出してください」と伝えました。

翌日、社長から電話で(弱々しい声で)「保険はないと思いつつ、破産のことは話さずに、妻に何気なく保険のことを聞いてみたんです。すると、生命保険と学資保険に加入していることが分かりました。しかも(妻に家計用に10年以上前に預けていた)私の個人口座から保険料が支払われていました…。」と話されました。そこで、社長はやむを得ず奥様に「3年前、俺が経営していた会社は(借金はなく)閉鎖したと伝えたけど、実は借金250万円があって、営業停止して破産準備をしていたんだ。破産費用の積立だ。3年弱かけて。弁護士さんに依頼して。それで積立が完了して破産書類提出のために保険解約返戻金計算書が必要になったんだ…。」と全て話したそうです。

奥様は激怒して、すぐに保険の代理店に解約返戻金について確認し、合計で約400万円あることが判明したとのことでした。

数日後に社長と奥様は(電話でご予約のうえ)ご来所されました。

奥様は私に、どうして3年前にきちんと確認させなかったのかと問い詰めました。私は当時の詳細な指示書類と手書きメモを見せて、「残念ですが、ここに当時お渡しした指示書類と作成したメモがありますのでご覧ください」とお伝えしました。『重要指示』用紙には保険の存在・名義・保険料支払い口座について確認すべきとの指示があり、さらに私の手書きメモにも「要注意」と記載がありました。奥様は、それがつい最近作成したようなものではなく、当時の社長のご相談時に詳細にとったメモであると理解してくれました。

その後の話ですが、約3年前の債務約250万円は遅延損害金を含めて約350万円になっていることが判明しました。保険解約返戻金が約400万円あるため、全額返済が可能であり、そもそも破産は法的に不可能です。

結局、ご夫婦は保険を全て解約し、約400万円が返戻金として手元に入り、そのお金で約350万円を返済(任意整理)して終了となりました。

約3年前に社長が奥様に確認していれば、その時に保険を解約して約250万円だけ返済してすべてが解決していたケースでした。「妻には破産を知られたくない。どうせ保険はないだろうし」との社長の判断によって、約3年間という時間と、(本来は250万円の返済ですんだところを遅延損害金を含めて350万円を支払わざるを得なかったという意味で)100万円分の損をしたということになります。

このケースをお読みになった方には、ぜひとも「他山の石」としていただきたいと切に願います。

執筆・監修:
代表弁護士 藤沢裕一(タキオン法律事務所)
東京弁護士会(登録番号 37689)

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