破産手続開始の決定により、破産債権者は個別的権利行使を禁止され(破産法100条1項)、破産者は破産財団に属する財産につき管理処分権を失う。
破産手続は、総債権者への公平な弁済を確保するための制度であるから、破産債権者は、破産手続開始の決定がされると個別の権利行使が禁止される(破100条1項)。その結果として、破産債権者は、破産手続中に強制執行を開始することは許されないし、また、既に開始されている強制執行は、失効する(破42条1項、2項本文)。
破産債権者は、その権利を行使するには裁判所に債権を届け出て配当を受けるしかなく、破産手続への参加を強制される(破111条以下、124条以下、193条1項等)。
期限未到来の債権につき期限が到来したものとみなすこと(破103条3項)、非金銭債権や不確定債権の金銭化(同条2項1号)、条件付債権や将来の請求権の無条件化(同条4項等)など変更が加えられる。
破産手続は、破産管財人によって破産財団に属する財産を換価して債権者に配当する手続であるから、破産者は、破産手続開始の決定により破産財団の管理処分権を喪失し、これに代わって破産管財人に管理処分権が専属する(破78条1項)。
破産者が管理処分権を失うため、破産財団に属する財産に関し、破産者が破産手続開始後に行った法律行為は、破産債権者に対抗できない(破47条1項)。
破産者の財産状態を明らかにするために、破産管財人若しくは債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産者は、破産に関し必要な説明をする義務がある(破40条1項1号)。破産者の代理人(同項2号)、法人の理事・取締役等(同項3号)、これに準ずる者(同項4号)破産者の従業員(同項5号)にも同様の義務がある。過去にそれらの地位にあった者も同様である(同条2項)。ただし、従業員に説明義務を課すためには、裁判所の許可が必要である(同条1項柱書ただし書)。
この義務に違反すると、破産犯罪(268条1項、2項)となり、また、破産者の義務違反は免責不許可事由(252条1項11号)となる。
破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、その所有する不動産・現金・有価証券・預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない(破41条)。その違反は、破産犯罪(破269条)となり、かつ、免責不許可事由(破252条1項11号)となる。
破産者は、説明義務などを尽くすために、裁判所の許可を得ることなくその居住地を離れることができない(破37条1項)。これは、法人の理事など、破産者に準ずる者にも準用される(破39条)。
裁判所は、破産者が説明を尽くさず、又は財団の占有管理を妨害する場合など必要と認めるときは、引致状を発して、破産者の引致を命ずることができる(破38条)。引致には、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則中の勾引に関する規定が準用される(同条5項、破規22条)。
破産管財人が破産者の財産状態や取引関係を把握するために必要があると認めるときは、裁判所は、破産者宛ての郵便物や信書便物を破産管財人に配達するよう信書送達事業者に嘱託することができ(破81条1項)、破産管財人は、受け取った郵便物等を自ら開封し、読むことができる(破82条1項)。
(破産債権の行使)
第百条 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。(破産債権者の手続参加)
第百三条 破産債権者は、その有する破産債権をもって破産手続に参加することができる。
2 前項の場合において、破産債権の額は、次に掲げる債権の区分に従い、それぞれ当該各号に定める額とする。
一 次に掲げる債権 破産手続開始の時における評価額
イ 金銭の支払を目的としない債権
ロ 金銭債権で、その額が不確定であるもの又はその額を外国の通貨をもって定めたもの
ハ 金額又は存続期間が不確定である定期金債権
二 前号に掲げる債権以外の債権 債権額
3 破産債権が期限付債権でその期限が破産手続開始後に到来すべきものであるときは、その破産債権は、破産手続開始の時において弁済期が到来したものとみなす。
4 破産債権が破産手続開始の時において条件付債権又は将来の請求権であるときでも、当該破産債権者は、その破産債権をもって破産手続に参加することができる。
5 第一項の規定にかかわらず、共助対象外国租税の請求権をもって破産手続に参加するには、共助実施決定(租税条約等実施特例法第十一条第一項に規定する共助実施決定をいう。第百三十四条第二項において同じ。)を得なければならない。(破産管財人の権限)
第七十八条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。(破産者の居住に係る制限)
第三十七条 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。
2 前項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。(破産者の引致)
第三十八条 裁判所は、必要と認めるときは、破産者の引致を命ずることができる。
2 破産手続開始の申立てがあったときは、裁判所は、破産手続開始の決定をする前でも、債務者の引致を命ずることができる。
3 前二項の規定による引致は、引致状を発してしなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による引致を命ずる決定に対しては、破産者又は債務者は、即時抗告をすることができる。
5 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)中勾こう引に関する規定は、第一項及び第二項の規定による引致について準用する。(破産者等の説明義務)
第四十条 次に掲げる者は、破産管財人若しくは第百四十四条第二項に規定する債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない。ただし、第五号に掲げる者については、裁判所の許可がある場合に限る。
一 破産者
二 破産者の代理人
三 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役及び清算人
四 前号に掲げる者に準ずる者
五 破産者の従業者(第二号に掲げる者を除く。)
2 前項の規定は、同項各号(第一号を除く。)に掲げる者であった者について準用する。(破産者の重要財産開示義務)
第四十一条 破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。(他の手続の失効等)
第四十二条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行又は外国租税滞納処分で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。ただし、同項に規定する強制執行又は一般の先取特権の実行(以下この条において「強制執行又は先取特権の実行」という。)の手続については、破産管財人において破産財団のためにその手続を続行することを妨げない。
3 前項ただし書の規定により続行された強制執行又は先取特権の実行の手続については、民事執行法第六十三条及び第百二十九条(これらの規定を同法その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。
4 第二項ただし書の規定により続行された強制執行又は先取特権の実行の手続に関する破産者に対する費用請求権は、財団債権とする。
5 第二項ただし書の規定により続行された強制執行又は先取特権の実行に対する第三者異議の訴えについては、破産管財人を被告とする。
6 破産手続開始の決定があったときは、破産債権又は財団債権に基づく財産開示手続(民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続をいう。以下この項並びに第二百四十九条第一項及び第二項において同じ。)又は第三者からの情報取得手続(同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続をいう。以下この項並びに第二百四十九条第一項及び第二項において同じ。)の申立てはすることができず、破産債権又は財団債権に基づく財産開示手続及び第三者からの情報取得手続はその効力を失う。(開始後の法律行為の効力)
第四十七条 破産者が破産手続開始後に破産財団に属する財産に関してした法律行為は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができない。
2 破産者が破産手続開始の日にした法律行為は、破産手続開始後にしたものと推定する。(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
3 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
4 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。(説明及び検査の拒絶等の罪)
第二百六十八条 第四十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第二百三十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)又は第二百四十四条の六第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をした者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。第九十六条第一項において準用する第四十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をした者も、同様とする。
2 第四十条第一項第二号から第五号までに掲げる者若しくは当該各号に掲げる者であった者、第二百三十条第一項各号に掲げる者(相続人を除く。)若しくは同項第二号若しくは第三号に掲げる者(相続人を除く。)であった者又は第二百四十四条の六第一項各号に掲げる者若しくは同項各号に掲げる者であった者(以下この項において「説明義務者」という。)の代表者、代理人、使用人その他の従業者(以下この項及び第四項において「代表者等」という。)が、その説明義務者の業務に関し、第四十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第二百三十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)又は第二百四十四条の六第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたときも、前項前段と同様とする。説明義務者の代表者等が、その説明義務者の業務に関し、第九十六条第一項において準用する第四十条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたときも、同様とする。
3 破産者が第八十三条第一項(第九十六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による検査を拒んだとき、相続財産について破産手続開始の決定があった場合において第二百三十条第一項第二号若しくは第三号に掲げる者が第八十三条第一項の規定による検査を拒んだとき又は信託財産について破産手続開始の決定があった場合において受託者等が同項(第九十六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による検査を拒んだときも、第一項前段と同様とする。
4 第八十三条第二項に規定する破産者の子会社等(同条第三項において破産者の子会社等とみなされるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者等が、その破産者の子会社等の業務に関し、同条第二項(第九十六条第一項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による説明を拒み、若しくは虚偽の説明をし、又は第八十三条第二項の規定による検査を拒んだときも、第一項前段と同様とする。(重要財産開示拒絶等の罪)
破産法
第二百六十九条 破産者(信託財産の破産にあっては、受託者等)が第四十一条(第二百四十四条の六第四項において準用する場合を含む。)の規定による書面の提出を拒み、又は虚偽の書面を裁判所に提出したときは、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
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